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「闇の中の男」 ポール・オースター [本]

闇の中の男

闇の中の男

  • 作者: ポール オースター
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/05/30
  • メディア: 単行本


 9.11後の現在に暮らす老人が眠れぬ夜の闇の中で夢想する、9.11の起きなかったアメリカの物語。そこではニューヨークの独立を巡って内戦が繰り広げられていて、その内戦を終わらせるために、一人の男が物語を創造した老人を暗殺する使命を負わされる、という作中作となっている。

 老人は娘とその娘と三人で暮らしており、それぞれが心に大きな喪失を抱えている。老人と孫娘は日々映画を観ては様々な事を語り合うのですが、この二人の対話によって、家族の歴史が明かされます。


 現実と虚構が交錯する中で広がる不思議な世界。語ること、物語に耳を傾けることで、人と人が繋がり、心が癒される。何度か引用される“このけったいな世界が転がっていくなか(As the weird world rolls on)”という詩の一節が印象深い。世界の混沌の中で人間が生きることについて考えさせられます。

 小津安二郎監督の「東京物語」についての作者の考察もとても興味深い。また本作も、オースターの世界に自然と引き込む柴田元幸氏の訳は流石です。



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「銀翼のイカロス」 池井戸潤著 [本]

銀翼のイカロス

銀翼のイカロス

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2014/08/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


 半沢直樹シリーズ第4弾の小説。

 業績悪化が続く帝国航空の担当を引き継いだ半沢は、経営再建計画修正案を作成。しかし、政権交代によってその修正案は破棄され、新政府が立ち上げた“再生タスクフォース”から500億円もの債権放棄を迫られる。

 政治家と行内の敵を相手に、半沢の戦いが繰り広げられる。金融庁の黒崎も登場します。

 ストーリーは引き込まれるし、半沢の“倍返し”が爽快ではありますが、その戦法としてはいつも通りで新鮮味はあまりなかったかな。前作『ロスジェネの逆襲』の方が面白かったと思います。

 とは言え、一気に読ませる文章は流石。十分に楽しめました。


 池井戸潤の作品、何冊か読んだ中では、やはり直木賞受賞の『下町ロケット』が一番好きです。

下町ロケット

下町ロケット

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/11/24
  • メディア: ハードカバー



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「櫛挽道守」 木内 昇 [本]

櫛挽道守

櫛挽道守

  • 作者: 木内 昇
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/12/05
  • メディア: 単行本


 長野県の伝統工芸品にお六櫛と呼ばれる梳き櫛がある。そのお六櫛を作る櫛挽職人となった主人公、登瀬の半生を綴った長編小説です。

 時代は幕末の動乱期、女性が思いのまま生きる困難と、その中で一途に櫛挽にのめり込む登瀬の姿。時に周りの者を傷つけてしまう程の彼女の純粋さ、天才職人の父への想い、早世した弟への想い、閉ざされた土地の風景と交錯して、そのもの悲しさに圧倒されます。

 苦悩の歳月を経て登瀬が辿り着いた場所の優しさがとてもいい。時代の片隅で懸命に生きる名もない人々を救ってくれるような木内昇氏の小説はやっぱり好きだなぁと思いました。

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「村上海賊の娘」 和田竜 [本]

村上海賊の娘 上巻村上海賊の娘 下巻



 村上海賊を主力とする毛利勢と、泉州海賊を主力とする織田勢が、大阪湾木津川口で激突した『第一次木津川口の戦い』の史実を元に描かれた時代小説です。 『2014年本屋大賞』を受賞した作品。

 時代背景に絡めて海賊の娘、景(きょう)を中心に、登場人物たちの立場や思惑などそれぞれの人物像が丁寧に描かれているので、最後まで飽きず一気に読みました。ユーモアある文章で、どの人物もとても魅力的に描かれています。

 特に下巻では、各家の存亡を巡っての緊迫感溢れる駆け引き。そして、遂に始まる壮絶な戦い…。誇りと信念を持って戦い抜く戦国武士たちの激しい生き様に圧倒されました。

 広島の実家に近いので、村上水軍の史跡には行ったことがあるのですが、詳しくは知らなかった。戦国時代こんなに力のあった海賊集団だったとは…。とても興味深い内容で勉強になりました。


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「キャパの十字架」沢木耕太郎著 [本]

キャパの十字架

キャパの十字架

  • 作者: 沢木 耕太郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/02/17
  • メディア: 単行本

 フォトジャーナリズムの世界でもっとも有名かつ最高峰といわれる「崩れ落ちる兵士」。だが、誰もが知るこの戦争写真には数多くの謎がある。キャパと恋人ゲルダとの隠された物語がいま明らかになる。(「BOOK」データベースより)


 戦場カメラマン、ロバート・キャパが1936年にスペイン戦争で撮影した有名な一枚の写真。共和国軍兵士が反乱軍の銃弾に当たって倒れる瞬間を捉えたといわれている。この「崩れ落ちる兵士」の謎に迫る著者の検証の記録である。

 とてもスリリングで、エキサイティングなルポルタージュでした。著者は、4回もスペインに赴き、様々な人に取材し、写真が撮られた場所の特定とその時の状況の考察を重ねる。その調査の緻密さ、執念深さに圧倒されながら読み進みました。写真は事実なのか、という真贋に着目して取材が進められるうち、写真の裏に隠された驚くべき真実が見えてくる。

 撮影場所はどこなのか、銃弾に倒れる兵士は誰なのか、「やらせ」ではないのか、写真を撮ったのは誰なのか。ひとつひとつの謎を明らかにして行く過程に引き込まれていくうち、ロバート・キャパの生き様に強く心惹かれ、戦場カメラマンとしての彼の凄さを感じさせられました。読後は、真実が何であれ、ロバート・キャパの写真家としての評価は変わらないのではという気持ちになっていました。

 「崩れ落ちる兵士」撮影時同行していたキャパの恋人だった女性カメラマン、ゲルダ・タローは、翌年に戦場で命を落とす。キャパ自身は1954年ヴェトナムで地雷を踏んで亡くなっている。ゲルダの運命や、ゲルダの死後大きな十字架を背負って戦場を渡り歩いていたかも知れないキャパの人生を思うと、実にドラマティックです。
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「ブルックリン・フォリーズ」 [本]

ブルックリン・フォリーズ

ブルックリン・フォリーズ

  • 作者: ポール オースター
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/05/31
  • メディア: ハードカバー
 P・オースターの映画を観たので、昨年読んだ新作の翻訳本「ブルックリン・フォリーズ」についても記録しておこうと思う。

 傷ついた犬のように、私は生まれた場所へと這い戻ってきた―ブルックリンの、幸福の物語。静かに人生を振り返ろうと故郷に戻ってきたネイサンが巻き込まれる思いがけない冒険。暖かく、ウィットに富んだ、再生の物語。(「BOOK」データベースより)

 病気を患い家族と別れた孤独な初老の男が、新しい生活の中で様々な人と出会い、あるいは再会し、その繋がりを通して人生を取り戻して行く物語です。

 軽妙な筆致で、登場人物たちが実に生き生きと魅力的に描き出されている。孤独や喪失感を抱え、また様々な問題に対峙しながら、前を向いて生きる人たちの姿。彼らの運命の行方が気になって、読む手が止まらなくなりました。

 愚行を重ねる人間の姿をユーモアで包み込み、暗い状況でもどこか希望を感じさせられる温かい物語。人間に対する愛しさに心が満たされます。P・オースターの他の作品とはまたテイストが違うような気がしますが、この作品も大好きになりました。新作が出るのを楽しみにしている作家の一人です。いつものことながら、柴田元幸氏の訳も心地良いリズムがあり、自然に物語の世界に入り込めて素晴らしかった。
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「冷たい方程式」 [本]

冷たい方程式 (ハヤカワ文庫SF)

冷たい方程式 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: トム・ゴドウィン・他
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/11/10
  • メディア: 文庫
 1980年出版の同タイトルのSF小説のアンソロジー(傑作選)の再編集版である。読み始めて旧版を読んだ記憶が蘇って来たが内容はほぼ忘れている。この新版に新しく入った短編もあるので改めて全部読んだ。

 1950年代とか60年代とか、かなり前の作品にもかかわらず、どれも全然古臭い感じがしないのが凄い。空中浮遊ができるようになった男がどう行動するか(「信念」アイザック・アシモフ)、幸運を引き寄せる男の話(「オッディとイド」アルフレッド・ベスター)、ロボットが存在を広げる社会で起こる混乱(「ハウ=2」クリフォード・D・シマック)、一人しか乗れない宇宙船に密航者として紛れ込んだ無垢な少女の運命(「冷たい方程式」トム・ゴドウィン)など、著名なSF作家たちの個性的な発想の詰まった物語に引き込まれる。

 私たちが生きる現代を暗示しているような内容でもあり、じわじわと恐怖が沸いてくるところが名作と呼ばれる所以でしょうか。ちょっと時間が空いた時など読むのにぴったりの本だと思います。
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「ことり」小川洋子著 [本]

ことり

ことり

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/11/07
  • メディア: 単行本
 世の片隅で小鳥のさえずりにじっと耳を澄ます兄弟の一生。図書館司書との淡い恋、鈴虫を小箱に入れて歩く老人、文鳥の耳飾りの少女との出会い…やさしく切ない、著者の会心作。(「BOOK」データベースより)

 “ことりの小父さん”と呼ばれる男の人生。鳥を世話し見つめ、その声を聴くことで、鳥の言葉しか話さなかった亡き兄を思い出しながらひっそりと生きる男の姿が心に沁みる。大切な人を想う時の切なさと安らぎに共感し、人間の存在がとても愛おしくなる。
 小川洋子の静謐で美しい文章は心地良く、いくら読んでも飽きない気がします。


 心が浄化するような読後感が好きで、時々無性に読みたくなる作家ですが、前回読んだ作品がこれ。
「最果てアーケード」
最果てアーケード

最果てアーケード

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/06/20
  • メディア: 単行本
 ここは、世界でいちばん小さなアーケード―。愛するものを失った人々が、想い出を買いにくる。小川洋子が贈る、切なくも美しい記憶のかけらの物語。(「BOOK」データベースより)

 懐かしさと哀愁を帯びたタイトルもいい。アーケードに暮らす少女、店長、客、それぞれの人生は、一風変わってはいるが、彼らを取り巻く死の気配や喪失感はとても身近に感じられて、心が癒されます。

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「ある男」と木内昇 [本]

ある男

ある男

  • 作者: 木内 昇
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/09/27
  • メディア: 単行本

 銅山を守ろうと奔走する鉱夫、新政権に迎合する警察官、中央政府への不満を募らせる人々を見守る元武士、国政への野心を抱く農民など、明治維新という時代の変化に翻弄される名もない“男”たちの姿を描き出した7編の短編集。
 木内氏の時代小説には、表舞台ではない違った角度から歴史を知る面白さを教えられます。
 それぞれの男たちの生き様は、時代の暗部をリアルに映し出していて、どれも哀しくやるせない。善悪では測りきれない人間の複雑な姿を鋭く抉り出す著者の筆致は今作も冴え渡っていて凄いと思いました。

 直木賞受賞作品「漂砂のうたう」を読んで以来、木内氏の著書が好きで1年前位から何冊か読んでいます。
 「漂砂のうたう」は明治初期、時代の変化に戸惑いながら自らも変わろうともがく人々の姿が、切なく痛々しく描かれていてその表現力の凄さに感動しました。
 
漂砂のうたう

漂砂のうたう

  • 作者: 木内 昇
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2010/09/24
  • メディア: ハードカバー

 他に読んだ作品を挙げておくと・・・、
 「茗荷谷の猫」
 「地虫鳴く 新選組裏表録」
 「笑い三年、泣き三月。」
 「浮世女房洒落日記 」
 ・・・江戸時代の主婦の日記を通して庶民の暮らしぶりが語られる。家族や隣人たちとのやりとりが面白く、平凡な生活の中にもささやかな喜びを見出す主婦の姿に共感した。
 「茗荷谷の猫」
 「ブンガクの言葉」
 ・・・いくつかのキーワードを元に明治から昭和にかけての日本文学を読み解いたエッセー。独自の視点と著者の言葉に対する謙虚な姿勢が印象的でした。
 
 どれも著者の文章の上手さと、その世界観に深く引き込まれました。

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「米国の光と影と、どうでもイイ話」 [本]

米国の光と影と、どうでもイイ話 向井万起男著

 著者は医師であり宇宙飛行士の向井千秋さんの夫である。これは彼の大リーグマニアとしての視点から、映画や本などをはじめとするアメリカの文化について語ったエッセー集。

 大リーグに関する幅広い情報に交えて数々の映画、書籍が紹介されているが、その視点のあまりのマニアックさに思わず笑ってしまう。そしてアメリカと野球の結びつきの強さに改めて感心しました。

 それにしても、米国映画には野球にまつわるシーンや台詞が一杯あるのですね。登場する映画のほとんどを私も観たことがありましたが、気付かなかったことが沢山。特に面白かったのが、映画を観ていて野球の上手い俳優、下手な俳優が一目でわかるという話。ちなみに、ケビン・コスナーはピカイチらしいです。
 第2章は大リーグゆかりの地を訪ねる旅行記となっていて、著者の大リーグに対する熱狂ぶりが呆れるほど。かなりの変わり者と見ましたが、でもその見聞の広さと記憶力、そして情熱は凄い。ユーモラスな文章で、大リーグに詳しくない私でも楽しめる本でした。
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