「おかえり、ブルゴーニュへ」 [旧作(DVD・TV)]
Ce qui nous lie
2017フランス
監督・脚本:セドリック・クラピッシュ
出演:ピオ・マルマイ、アナ・ジラルド、フランソワ・シビル
映画館に行けないので、家で録りためた映画をひとつずつ観ています。
本作は「スパニッシュ・アパートメント」などのセドリック・クラピッシュ監督作品。彼も好きな監督の一人。原題の意味は『私たちを繋ぐもの』です。
フランス、ブルゴーニュ地方のドメーヌ(ワイン生産者)の一家の物語です。
家出した長男が父危篤の知らせに10年ぶりに帰宅する。
やがて亡くなった父の跡を継いだ妹、結婚して婿養子に入ったドメーヌの家を手伝う末の弟。三人が協力して亡き父のワイナリーでワイン造りをしながら、家族の絆を取り戻し、それぞれの抱える問題に向き合う一年間を描き出します。
味わい深い人間ドラマと同じ熱量で、ワイン造りの過程が丁寧に描写されていました。
ワインは詳しくないので、ぶどうの栽培から収穫、発酵、熟成と、ワイン醸造の過程がよくわかって興味深かった。
ワイナリー毎に品種や栽培方法、収穫時期、茎取り(除梗と言うらしい)の割合などが異なり、造り手の個性が強くワインに反映するのも、なるほどと思いました。ワイン造りの奥深さに感動します。
減農薬や手造りに拘り独自のワインを追求する妹を中心に描かれる三兄弟の、ワインに対する情熱、また家族や故郷への愛は、四季折々のブルゴーニュの美しい風景と共に、心に響きました。
ワインを飲むシーンが多いのですが、グラスの扱い方や飲み方がお洒落で、とても美味しそうだった。(本作を観てからは家で毎日ワインを飲んでいます。)
心の癒される優しい映画でした。
音楽も良かったし、ブルゴーニュの風景を小さく入れたエンドクレジットまでがお洒落で、映画の余韻が心に広がります。
****
「天地に燦たり」川越宗一 [本]
直木賞受賞作「熱源」をいつか読みたいと思っているのですが、その前に、2018年の川越宗一氏のデビュー作を読んでみました。
豊臣秀吉の朝鮮出兵から島津の琉球国制圧までの詳細が描かれ、知らなかった歴史の部分でもあるし、とにかく面白かった。
島津家に仕える侍大将、商人に姿を変えた琉球国の密偵、朝鮮国の被差別民の青年。三人の男が自身の誠を尽くし、動乱の世を逞しく生き抜く物語です。
戦の場面は迫力溢れる文章に引き込まれ、著者の知識量や鋭い考察力に驚かされました。
何のために戦うのか、何のために生きるのか、重いテーマですが考えさせられます。
戦争の惨さは読んでいて辛いですが、それぞれの国、立場で貫く彼らの矜持は清々しく格好良かった。
別々に描かれる三人の人生が徐々に交わって行く様はドラマチックです。ラスト、異なる道を駆け抜けた彼らが、礼を持って対峙する姿は感動的でした。
根底に儒学の思想がありますが、共感できる教えが多く興味深かったです。
「ビリーブ 未来への大逆転」 [旧作(DVD・TV)]
On the Basis of Sex
2018アメリカ
監督:ミミ・レダー
出演:フェリシティ・ジョーンズ、アーミー・ハマー、ジャスティン・セロー、キャシー・ベイツ、サム・ウォーターストン、スティーブン・ルート、ジャック・レイナー、カイリー・スパイニー
史上初の男女差別裁判に挑んだ女性、ルース・ベイダー・ギンズバーグの半生を描いた伝記映画です。
現在87歳にしてアメリカの最高裁判事を務め、”RBG”の愛称で呼ばれる有名な人なのですが、恥ずかしながら知りませんでした。
彼女についてはドキュメンタリー映画「RBG 最強の85才」も昨年公開されたようです。
ハーバード法科大学院に入学しコロンビア大学に転校、学生結婚した夫と子育てをしながら猛勉強の末、主席で卒業。法律家となったルースが、その後の数々の男女差別訴訟に大きな影響を与えた、性差別が絡む税金裁判に勝利するまでのストーリーです。
男女差別がまだ当たり前の時代。女性である事を理由に弁護士事務所に就職できず、大学教授職に甘んじるルース。しかしある日、彼女に性差別訴訟の弁護人となるチャンスが訪れ・・・。
信念を貫くルースの人生に胸を打たれます。現在に至るまで社会を変えるためにどれだけの戦いがあったかを思い知らされました。
病の夫を支える妻として、また二人の子供の母親としての姿も丁寧に描かれているので、ルースの人間性に惹きつけられる。子供の成長と、子供によって彼女自身も助けられているのがとても好ましかった。フェリシティ・ジョーンズの演技に終始引き込まれます。
互いに尊重し合う夫婦の姿も感動的です。ルースを愛し、家族として応援し、同じ弁護士として励まし続ける夫を演じるアーミー・ハマーがとても素敵でした。
法定シーンの緊張感と、力強いスピーチは胸に迫る。現在に生きる私達の未来もより良く変わって欲しいという願いを新たにしました。
RGB、とても興味深い人だったので、ドキュメンタリー映画も観たいと思います。
***
「アンダーグラウンド」 [旧作(DVD・TV)]
Underground
1995フランス・ドイツ・ハンガリー
監督:エミール・クストリッツァ
出演:ミキ・マノイロビッチ、ラザル・リストフスキー、ミリャナ・ヤコビッチ、エルンスト・ストッツナー、スラブコ・スティマチ、スルジャン・トドロビッチ
TVで鑑賞。ずっと観たいと思っていた、パルムドール受賞のクストリッツァ監督作品です。
第二次世界大戦からユーゴスラビア内戦の時代。
終戦を知らずに地下でドイツへのパルチザン活動を続ける旧ユーゴスラビアの人々と、戦争を利用して成り上がる人々の、悲喜劇が描かれていました。
奇抜な映像とパワフルなジプシー音楽、クセの強い俳優陣の演技に圧倒されます。ブラックなユーモアの効いたストーリーは引き込まれ、戦争に翻弄される人間の姿がより鮮明に浮き上がっていました。明るいけれど重い、可笑しいけれど哀しい、不思議な感覚に包まれます。
ユーゴスラビアの歴史に詳しければもっと深く味わえるのでしょうが、調べても理解しきれなかった。
それでも、失われた祖国に対する監督の想いは伝わって来る。ラストシーンは何だか泣けて来て、胸が一杯になりました。
内戦の時代に製作した作品だそうで、凄い監督だと改めて思います。ちなみに本作も監督がちょこっと出演していました。お決まりの動物も色々出てきます。
****